煤けた街 カサブランカ - 「文・写真 平本 一雄」
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2009.04.27

まるで、エーゲ海の島々にある白い家並みの街と同じように。
また、ハリウッドの名画「カサブランカ」を思い出す人も多いに違いない。イングリッドバーグマンとハンフリーボガードとのラブロマンスの舞台は迷路のようなアラブの古い街並みの中に欧米人のホテルやレストランが入り混じる街を思い起こさせる。
このようなイメージを抱いてカサブランカを訪れる日本人は、それとは異なる街並みに遭遇し、誰もが落胆する。
カサブランカは、モロッコの他の都市のフェズやマラッケシュのように首都としての輝かしい歴史を持つ都市ではない。大西洋に面する海辺の小都市がもともと起源となることから、迷路を有するメディナ(イスラム都市の旧市街地)はとても小さい。この街はモロッコがフランスの保護領となってから、交易の拠点として発展し始める。都市としての空間もイスラム風よりもフランス風のものがほとんどだ。広い街路、ところどころにある大広場、1階が柱廊(ポルチコ)になった沿道建築、その景観はフランスの都市とそれほど変わらない。
交易都市としてのカサブランカは、日本でいえば大阪の性格に似ているのかもしれない。
現在、人口400万人を有する経済中心都市としてのカサブランカには文化的な雰囲気は乏しく、誰もがなりふり構わず産業優先で忙しく喧騒と共にある煤け、薄汚れた白い街並み、フランスの場末の街を思い出させる。
しかし、モロッコにおいては、政治、行政の中心地である首都ラバトを活力の面では明らかに圧倒する産業と人種のるつぼである。それは、米国のワシントンとニューヨークの対比かも知れない。カサブランカは観光収入に依存する美しい街並みの都市ではなく、お金を稼ぐ力を持った都市としてのモロッコのセンターなのだ。
映画カサブランカ その再現―Rick's Café - 「文・写真 平本 一雄」
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2009.04.27

主人呼応のハンフリーボガードが経営するRick's Caféは、スークのあるメディナ(旧市街地)にも近く、飛行場にも近い場所にある。現実にはありえないこの立地は、映画の撮影がカサブランカでは一切行われずに、ハリウッドの施設の中ですべて行われたことによるものだろう。現実のカサブランカでは、メディナは港の近くにあるし、飛行場は kmも離れた所にあり、過去も市街地の近くにあった形跡はない。
しかし、奇妙な場所に立地するとはいえ、映画の中のRick's Caféには心惹かれる。モロッコの王宮を思わせる大きな木の扉、そこに時折照射される空港からのサーチライト、イスラムアーチで構成された店の内部には、サッチモ演じる のピアノを囲んで円形テーブルが配置され、壁際にバーカウンターが設けられている。ピアノの演奏はお馴染みのテーマソング「時の過ぎゆくままに(As time goes by)」だ。
本物のカサブランカに行くと、ロケに使われたこのCaféがあるのではと、かなわぬ望みを抱いた人も少なからずいたに違いない。映画がセットの造りものにすぎないことを知るまでは、私のそう信じていたのだった。
そんな人が多く、その思いが強ければ、実際には存在しないこの映画の空間も実現してくるから、人間の世界というのは不思議なものだ。世界の人々の思いに応
じて、実際のカサブランカの中心市街地の西方、港に近い場所の古い建物が改造され、Rick's
Caféが数年前にオープンした。町の中心にあるホテルから赤色ボディーのプチタクシーで7分ほど、どのタクシーも大体30DHで行ってくれる。
映画のようにRick's
Caféのネオンサインや重厚な木の扉はないが、木枠のガラス扉を開いて入ったその内部にはイスラムアーチの柱廊が映画の舞台空間へと招き入れてくれる。

そんな中に、バーカウンターに座る1組の日本人のカップルがいた。若くはないが、それなりのキャリアがありそうな二人、カクテルを嗜むその女性はすっかり映画の中に陶酔しているようであった。この二人も、映画の中のRick's Caféを求めてやってきたに違いない。
その憧れの舞台の中に自分を置いて、その感覚に酔いしれることのできる空間、それは何物にも替えがたい価値あるものに違いない。ウエイターに依頼して、写真を撮ってもらう二人、私以外に日本人のいないこの場所で、うまくその場所の雰囲気に溶け込み振舞っている二人に、おのぼりさんでない日本人が増えつつあると感嘆するのだった。
映画では、ハンフリーボガードが店の主人として客のテーブルを廻る。この店では黒いドレスを着た女主人が廻ってきてくれる。私のテーブルに料理が運ばれてきたら「ボナペティ!」と微笑みが送られてきた。私がこの店で頼んだのは、カニサラダとサーモンムニエル、そしてモロコンワインのバンルージュのフルボトル、これら含めて400DHはとても安いと思った。帰りがけに駆け寄ってきてくれた女主人の「オウ ルヴォワール」の声に見送られて、私は追憶の店を出たのであった。


































