東京都市大学 TOKYO CITY UNIVERSITY



設計条件が厳しいほど、ユニークな建築が生まれる ―多摩動物公園昆虫生態園の設計―

動植物系から人間系まで幅広く手掛ける環境建築家 淺石 優

淺石 優

『先生の家にはチョウチョウの孵化箱があって、ガやチョウの幼虫をそこで孵化させて、それを部屋ぐらいの大きさの網でかこった、特別の花園にはなしてやるのです。その花園には、たくさんの草や花や、そのほか、チョウチョウの幸福のために必要なものが、全部そなえられてありました。すべての設備は、研究をつづけている間、なるべく虫を幸福に、しかも自然のままの状態に保つようにすることを、第一の目標として作られています。トンボやカワゲラの幼虫のような、水棲動物のためには、水藻や水草を入れた小さな水槽がたくさんありました。ゲンゴロウもやはり水槽にはいっておりました。実際、先生は虫類とことばをかわす目的で、あれやこれやの時期に、ほとんどあらゆる種類の虫を、研究しつくしたといってもよいほどでした。』 「ドリトル先生と月よりの使い」(ヒュー・ロフティング著 井伏鱒二訳)

多摩動物公園昆虫生態園
多摩動物公園昆虫生態園

多摩動物公園にも、蝶の幸福のために必要なものが全部そろえられ、しかも自然のままの環境を保ち、室内に居ながらそれを感じさせないような昆虫生態園がつくられました。
1987年12月、100頭余の蝶が温室の中に放たれました。以前は200m²の温室に約150頭飛ばしていたので、大空間の中では全然目立たないのではないか、2,000頭ぐらい入れなければダメなのではないかと全員そう思っていました。ところが、蝶密度が低いにもかかわらず、個々の蝶がはっきりみえるし、蝶本来の飛翔をしだしたのです。公園の担当者、ぼくらにとっても新しい発見でした。それでいっぺんに「これは大変よい温室だ」ということになりました。

「蝶のかたち」でデザイン1985年に、多摩動物公園の飼育課長・矢嶋さんを中心に設計が始まり、最初に「昆虫のイメージにしてください」というお話がありました。「昆虫のイメージ」を抽象化したかたちのデザインを何度も提案しましたが、なかなかOKがでません。そうこうしているうちに、「昆虫のイメージ」は、「昆虫のかたち」であり、さらに矢嶋さんの専門である「蝶のかたちにしたい」ということであることがわかってきました。20世紀の建築デザインは抽象表現が主流でしたから、このような具象のデザインに踏み切るのには大変な勇気が必要でしたが、バブル経済で価値観が多様化した時代でもあったので最終的には「蝶のかたち」でデザインすることになりました。
昆虫生態園は、ゲート右手の高台のクヌギ・コナラの樹海の中に巨大な蝶が羽根を休めるような形で配置されています。昆虫本館南側の谷を利用することで、冬の北風を防ぎ、夏には谷を渡ってくる涼しい風を採り入れることが可能で、南向きの太陽光豊かな、温室として理想的な建築になっています。
都市でも田園でもそこにあるモノやコトや環境と建築の関係のあり方がとても重要で、動植物系から人間系建築まで、僕が手がけると、どんなに条件の悪いところでも、これまでにないすばらしい環境に生まれ変わるのです。

略歴

大阪万博の年に、武蔵工業大学工学部建築学科を卒業。
大学4年から医院建築の設計を手がけ(SPACE DESIGN GROUP)、卒業後完成。れんが敷の床、適度に囲まれた中庭、打ち放しコンクリート、そしてガラスボックスがやりたかった。医院が開業したとたんに、先生の奥さんから電話がある。「待合室が暑くて患者さんが皆帰ってしまったわよ。どうにかして頂戴!」と。冷房があり、ロールブラインドがあり、ガラス屋根上部には水が流れ・・・。学生の浅知恵。ヨシズをガラス屋根に載せて事なきを得る。外断熱は目を見張るものがあった。淺石建築の原点。その後日本設計に入社。熱帯ドリームセンターや多摩動物公園・昆虫生態園などの動植物系建築。富山市庁舎や跡見学園などの素材を多用した建築。長岡造形大学やアミュゼ柏などの打ち放しコンクリートとガラスの建築。読売広告社やアクアマリンふくしまなどのガラス質の建築。アクロス福岡や秩父市歴史文化伝承館などの緑で覆われた毛深い建築など、環境を重視した作品多数。日本建築学会賞、BCS賞、公共建築賞、JIA環境建築賞など受賞多数。

担当科目
文化施設のデザイン、建築のしくみ、建築計画、空間デザイン演習(1)・(2)・(3)

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