強いブランド創りは単純で大胆な「自己主張」から
-ブリティッシュ・エアウェイズのブランド戦略-

ブランド育成のプロフェッショナル

伊藤 裕一

・有名デパートの1階には何故、必ずブランド・ショップがあるのか? 単純に言ってしまえば、こうした「強いブランド」は、人と、お金を強力に惹きつけるからです。ヴィトン、エルメス、フェラガモ等の欧州ファッションブランドだけでなく、アップル、ナイキ、ソニー、コカコーラ等も、やはり、超強力なブランドです。そのブランドを愛する人にとっては、そのブランド以外では満たされない何かが心の中に生まれ、何年も買い続けるのです。
・航空会社にも「強いブランド」は必要か? 20年以上も前の話ですが、米国を中心に空が自由化され、航空業界も、激烈な競争時代に突入しました。対応策として、87年にはブリティッシュ・エアウェイズ(旧英国航空、以下BA)は民営化され、国内の航空会社を吸収し巨大な航空会社になりました。勝ち残りを賭けた大改革の一つとして「強いブランド」創りが開始されました。

・日本に「強いブランド」を創る!
英国本社で、「強いブランド」創りのチームができ、世界の主要地で、その責任者が必要になりました。私は、そのために91年に入社し、翌年に日本のマーケティング責任者になりました。
・まず、ブランド・アイデンティティをハッキリさせる
「自分を10秒で語ってくれ」と言われたら、なんと言いますか?自分の正体、夢、理想等がブランド・アイデンティティです。これがないと、ブランドが成立しません。
・BAのブランド・アイデンティティ:"Big & Caring"(当時)
(当時)BAは欧州で最大級の路線網、世界で1、2位を争う大きな航空会社でした。だから"Big"で、乗客は、安心、便利などの利点を得ます。が、(当時)客室乗務員等の機内サービスの評判はいまひとつ。そこで、敢えて、アイデンティティに"Caring(=心配り)"を入れ、サービスを革新して、本当に「強いブランド」になることを表明しました。
・「空飛ぶホテル ブリティッシュ・エアウェイズ」
「ブランド・アイデンティティをTV広告で!」という思いが強くなりました。早速、当時の広告代理店とアイデア交換です。課題は「心配り」。サービス力は、向上中でしたが、日本の航空会社という訳にはいきません。悩んだ末、英国のバトラー(執事)を思いつきました。適当な距離感を保ち、必要な時には、サッと、世話をしてくれる。こうした心配りがある「居心地の良い」ホテルがBAだ。そして、アイデンティティの"Big"は、広告では、「大胆な」表現という意味があり、「大胆に、居心地の良いホテルを、飛ばしてしまおう!」と創ったのがBAのTV広告、「空飛ぶホテル編」です。英国本社の企業ブランド広告を日本で独自に制作・放映するというのは、相当異例でしたが、皆さんの力で実現できました。CGも無い頃で、ホテルの模型を人工の雲の中で移動して撮影しました。
・「強いブランド」を創ろう!
強いブランドを創るには、幾つかの秘訣があります。皆さんと、それを分かち合い、一緒に考えて、開発したいものです。この続きは、キャンパスで・・・。

略歴

慶応義塾大学社会学修士、カリフォルニア州立大学フラトン校MBA。 ジョンソン&ジョンソンKKプロダクト・マネジャー、ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)日本支社マーケティング部長、スウォッチ・ジャパン事業部長、CIC・ビクタービデオ(株)代表取締役社長等を歴任。この間、ベビーローションのブランド・マーケティング、BAのブランド開発、スウォッチ日本初の直営店オープン等に関わる。経済産業省登録中小企業診断士。

著書:「ブランドマネジメント能力」(日本能率協会マネジメントセンター)、「マーケティング監査ハンドブック」(日本能率協会マネジメントセンター)など。

担当科目

マーケティング概論、ブランド戦略、ソーシャルマーケティングほか