楽しみから安心まで、
都市の新たな生活価値を創出する
コミュニティづくりを目指して。

社会学者・コミュニティデザイン実践家

坂倉 杏介

ドイツの社会心理学者クルト・レヴィンの有名な言葉があります。"If you want truly to understand something, try to change it." 「本当に何かを理解したいなら、それを変えてみなさい」という意味です。
大学院生の頃から私は、多様な文化的背景を持った人たちが創造的に出会い、ともに社会の文化を生み出すような場が、現代の都市には必要だと考えていました。いまでこそ地域の居場所やコワーキングスペースといった形でサードプレイス的な場は増えていますが、当時は(少なくとも東京には)そういった事例はなかった。そこで、「とりあえずやってみる」ことにしました。
大学で助手として働きながら、教員や学生の仲間と一緒に、地元商店街の方々の力を借りてつくったのが「三田の家」です。キャンパスに程近い繁華街のなかにひっそりとたたずむ民家をみんなで改装した「家」では、時に授業やワークショップが、時に留学生との交流会が、時にここ以外では出会うことのなさそうな多様な人たちでごったがえす食事会が行われました。
やってみることで、いろいろなことがわかってきます。場があることでつながりができ、新しい出会いが、想いもしなかった活動やビジョンを生むこと。それが地域の生き甲斐や安心感にもつながること。まさにこれから必要とされる、都市型のコミュニティです。この小さな活動はその後、港区との連携で実施するコミュニティ活性化事業「芝の家」や「ご近所イノベーション学校」に発展していきました。
現代は、予測の非常に立てにくい社会です。行政や企業はこれまで、都市の生活課題を解決するサービスをどんどん生み出してきましたが、結果的に地域社会は分断され、その裏では一人ひとりの暮らしの孤立が進行しました。どのような社会が私たちにとって幸せなのかという問いに正解はなく、それゆえ、どんなサービスが私たちに必要なのかもわからない。茫漠とただよう孤独感と不安感を感じる人も少なくないはずです。  しかし、正解がわからないのであれば、レヴィンのいうように、自分たちで社会を変えていくことで、それを見つければよいのではないでしょうか。都市の消費者ではなく、都市の実践者として関わりあえる仲間=創造的なコミュニティがこれからますますもとめられる所以です。そして、そうしたコミュニティがあることで、不測の事態にも対応できるしなやかで強い地域社会が実現できるでしょう。

略歴

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所特任講師を経て現職。多様な主体の相互作用によってつながりと活動を創出する「コミュニティ・プラットフォーム」という視点から、コミュニティの形成過程やワークショップの体験デザインを実践的に研究。地域コミュニティの拠点「芝の家」や大学地域連携の人材育成事業「ご近所イノベーション学校」の運営などを通じて港区のコミュニティ活性化事業を手がけるほか、地域づくりや企業におけるコミュニティ形成プロジェクトに多く携わる。三田の家LLP代表。NPO法人エイブル・アート・ジャパン理事、一般財団法人世田谷コミュニティ財団理事、一般社団法人おやまちプロジェクト理事、一般財団法人ユガラボ理事。

著書:「コミュニティマネジメント―つながりを生み出す場、プロセス、組織」(中央経済)、「わたしたちのウェルビーイングをつくりあうために―その思想、実践、技術」(BNN新社)、「黒板とワイン―もう一つの学び場『三田の家』」(慶應義塾大学出版会)、「いきるためのメディア―知覚・環境・社会の改編に向けて」(春秋社)、「ソーシャル・イノベーションが拓く世界―身近な社会問題解決のためのトピックス30」(法律文化社)など。

担当科目

コミュニティマネジメント、都市の社会学、マーケティングリサーチ演習(1)(2)ほか

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