「問題解決型アプローチ」によるモノの開発

新たな「建築の仕組みづくり」に挑む研究者

信太 洋行

都市を元気にするために必要なものは何でしょうか。経済社会を活気づけていくものは何でしょうか。国の成長を高めその基盤をゆるぎないものにするものは何でしょうか。 今まで考えられなかったような便利さ、これまで体験することのできなかったような喜び、要するに全く新しい価値を次々に作り出していく製品やサービスを次々に生み出していくことが、本質的に必要なものだと思います。
2002~03年当時、東京では都心地区で大規模な業務系建物の建設が盛んでした。しかし、それらの開発が動いていない地区は、多くの中小ビルに空き家が目立ち、いわゆる二極化現象が進んでいました。このような状態が長く続くと、街の活力を維持するための投資が行われにくくなり、長い時間をかけて醸成してきたコミュニティや多様性が失われる恐れがあるため、新たな投資を誘発する策が社会的に求められていました。
そこで、東京大学生産技術研究所の野城智也教授を代表とするプロジェクトチームが、「サービス(機能・効用)売り」型のビジネスモデルを構築する事で、この問題を解決しようと活動を始めました。核となるアイデアは、機能を生み出す「装置」としてのインフィル(内装・設備)をリース・レンタルすることによって、虫食い状の空き家の中身だけを取り替えていくというものです。では、インフィルをリース・レンタルすることのメリットは何でしょうか?第一に、負担が平準化するため、大きな初期投資をしなくても改修できること。第二に、建物全体では無く、空き家のみの小さな単位で改修できること。第三に、リース・レンタル期間を適切に設定すれば、市場動向の変化に柔軟に対応して用途変更ができること、です。
このプロジェクトでの私の役割は、現行法規においては設置されると建物と一体と見なされるインフィルを、家具・家電と同様に動産として扱えるような「装置」を開発することでした。開発の手がかりとしたのは、建物本体と建築設備・機器との附合が争点となった過去の判例です。収集・分析した結果、特徴的な三点が抽出されました。

1)着脱性を確保し、見た目にも着脱容易性をうかがわせること
2)取り外す際に、周囲の建築構成材を傷めないこと
3)汎用品であること

これら三つのポイントを満足させるために、私は①配管スリーブ(図1:設備版のコンセント)②配管吊り構法(写真1:床スラブではなく内装床に固定)③BOXユニット(図1:汎用キッチン・バス・トイレの領域を明確化)を開発し、東日本橋地区の既存事務所ビルの一室(約90㎡)をお借りして、試作実験(1期はシェアリング、2期はSOHOに間取り変更)を行いました。実験の結果、1期から2期の移設には3日間・約10人工、撤去には約5日間という短期工事で出来る事を確認し、汎用的なインフィルを動産として扱うための必要条件を満たすことができる見通しを示す事ができました。
ここまでは、インフィルをリース・レンタルするための物理的な検討(着脱性)でしたが、今後はこの様なビジネスモデルと整合する契約モデルも考えなくてはなりません。具体的には、サービスの範囲とサービスレベルに応じた料金算定などを、どの様に明示していくかが課題となります。この様なサービスの提供者を「サービスプロバイダー」とするならば、サービスプロバイダーがエンジニアリング的な側面からサービスの質・量を提示しながら、顧客である住まい手と対話し、両者が学習していく。この積み重ねによって、より豊かで、サステナブルな社会が実現するのではないかと考えます。

担当科目

住まいの構法・生産・流通、建築法規、都市デジタルシミュレーション(2)ほか